• 2021.02.06
  • コンサルタントvoice

コロナ禍で通常のM&Aが困難な場合の変形スキームについて

 

コロナ禍が長引くなかで、会社や事業の引継ぎを希望するブライダル事業者(結婚式場、付帯事業者)にとって通常はM&Aが優先的な解決策となるのですが、実際には、買手候補として真っ先に挙げられる同業他社(大手)も、足下の業績悪化と先行き見通しが不透明ななかで、多額の一時的な投資金を要するM&Aについては、二の足を踏んでいる状況にあります。
 
何故なら、潜在的買手事業者も、M&Aの際は金融機関(特に上場会社の場合は株主も)に資金提供可否の判断を仰ぐ必要があり、運転資金が逼迫し、業績の回復が見通せない現状で、新たな事業資金の提供を具申するような環境にないためです。
 

そこで、最近の傾向としては、実質上、買手からの投資金の分割支払いを可能とするM&Aスキームを前提に案件化をご検討されるケースが増えています。

実際の案件例を以下のご紹介いたします。


≪ケース①≫
売手が土地・建物を賃借している結婚式場について、買手候補に委託契約を通じ運営を任せて、賃借料を最低額として年間売上の所定割合を売手側が受け取ることとし、一定年数経過後に委託開始後の収支を元に計算式を事前に約定したうえで、売手が買手候補に事業売却(施設賃貸借契約も引継ぎ)する権利を付与する形式

 
≪ケース②≫
売手が土地・建物を自社で所有している結婚式場の不動産所有権を移転することなく、買手に事業譲渡(運営権、人材、予約等)形式で売却(できるだけ金額を低位または無料に設定)し、売手と買手間で新たに土地、建物の賃貸借契約を締結のうえ、家賃設定を「地域相場+事業収益上乗せ」として設定する形式

 
≪ケース③≫
売手が土地・建物を賃借している結婚式場を転貸する形で、月々の転貸料として、現状の家賃に内装・設備の減価償却費と元々の事業としての将来収益の一部を加算する形式

 
≪ケース④≫
売手の運転資金不足分に対して買手候補から資金提供(マイノリティ出資、転換社債引受等)を受け、売手オーナーの経営権を保持しつつ、将来的には買手として優先的に過半数取得の権利を残しながら、当面は事業提携を通じた共同経営体制を構築する形式

 
また、買手候補会社からの希望として現状多く頂いているのは、「コロナ禍という特殊事情がなければ本来的には前向きにM&A案件として検討していたはずの譲渡案件」に関して、現状一時的な投資金の手当が困難なため、当面の方策としてコンサルティングや運営受託といった事業の移転を伴わない友好関係を構築し、既存の事業の競争力と収益力を高めた上で、来るべきタイミングでの資本関係を希望されるというものです。
 
M&Aとは、従来の「単純に会社や事業を譲渡して、売手との関係をその時点で終了する」というものから、「売手と買手で長期的なビジネス連携を保持しながら、長期的に両社の収益を確保する形式」のなかで様々に工夫がなされてきています。したがって、コロナ禍の制約により単純にM&Aの検討を諦めてしまう必要はないのです。